2013年04月18日
ベースボールクリニックへ登載!
ベースボールクリニック(ベースボール・マガジン社)5月号へチームの取り組みが取り上げられました。
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軟式社会人チーム探訪
沖繩・チップチップベースボールセンター
草野球チームが
全国レベルの強豪に
昨年、沖縄で「全日本軟式野球大会」いわゆる「天皇杯」が開催された。沖縄の日本復帰40周年記念事業の一環として行われたもので、県からは6チームが参加。うち5つは“開催地枠”による参加で、予選を勝ち抜いて代表になったのは、チップチップベースボールセンターだった。
同チームの結成は95年。前底譲監督を中心に、那覇商高硬式野球部OBの同級生が集まって作ったものだ。
「私が大学2年のとき、チップチップベースボールセンターのオーナーと出会ったことがきっかけでした。野球部OBといっても、レギュラーだった選手は県外の大学に行ったり、県内の硬式野球チームに入ったりしていたので、ほとんど控えメンバーだったんですけどね。だから、最初はただの“草野球チーム”でした」
前底監督はそう言って笑ったが、その草野球チームが県を代表して九州大会、西日本大会、さらには国体や天皇杯など全国の舞台に立つまでの強豪になったのである。
結成当初の思いは、「県内の企業チームをクラブチームで倒してやろう」というものだった。しかし、「オジさんのチームとやるときとか、ナメてかかっていた」(前底監督)のが原因か、なかなか勝てない。結成2年目に全日本軟式野球連盟に加盟し、まずC級で戦ったが、まったく結果が出なかった。それが翌年、B級にクラスを上げると、なぜか夏の県大会に優勝して全国大会でベスト4入り。上位クラスに入ることで、高い意識を持つようになったことが奏功したようだ。
意識改革といえば、勝てるようになったころから、前底監督は時間や野球に取り組む姿勢に厳しくなったと言う。携帯電話で時報を聞き、集合時間に1秒でも遅れると、その日の試合にはたとえ主力であっても出さないなど徹底していた。「勝ち始めたころから厳しくしたというより、厳しくするようになったら結果が出始めたんです」と同監督。野球の勝敗は技術だけで決まるものではない、ということだろう。
那覇商高野球部の控えメンバーが中心だったチームに、大学を卒業したレギュラー組が加わったり、他の高校OBが参加し始めたことも、チーム力アップにつながったかもしれない。気がつけば、チップチップベースボールセンターは県内で名の知れた軟式野球クラブチームとなり、甲子園経験者まで参加するようになっていた。
今年も一人、有望な新人が加わった。国仲那樹捕手。浦添商高で3年春までレギュラーを張り、夏は背番号12でベンチ入り。昨夏の甲子園ではマスクもかぶった。沖縄国際大に進学したが野球部には入らず、チップチップベースボールセンターの一員になった選手だ。
「小学校のころからチップチップベースボールセンターに通っていて、去年の秋、そこで誘いを受けたんです。硬式を続けたいとは思っていなかったし、A級の中ではレベルの高いチップチップでやってみようと思いました。みんなキビキビしているし、言うべきところはちゃんと言うチームですね。このチームが強くなるように、貢献していきたいです」
紹介が遅れたが、「チップチップベースボールセンター」は浦添市内にあるバッティングセンター。つまり、国仲選手は子どものころから、そのバッティングセンターで練習していたというわけだ。
全力疾走やカバーリングの
意識では日本一に
バッティングセンターがスポンサーになってくれている利点は、打撃練習が無料でできること。しかし、投手は各自で走り込みをしたり、空いた時間に誰かをつかまえて、キャッチボール程度の練習をするしかない。他のクラブチーム同様、練習環境には決して恵まれていない。
全体練習は週1回のみ。火曜日の夜8時から10時まで、市内小学校のグラウンドを借りて行っている。沖縄県各市では学校体育施設の夜間・休日開放事業を行っており、体育館や照明設備のあるグラウンドを一般開放しているのだ。取材当日は体育館にも明かりがともっていた。
大会が入ってなければ、日曜日に練習試合をすることもあるが、なにしろ全体練習の時間が少ない。したがって、各自でウオーミングアップを済ませると、実戦形式の練習をすることが多くなる。取材当日もアウトカウントや走者を想定したシート打撃を入念に行っていた。
そして、気になる点があれば、練習を中断して集まり、ミーティングが始まる。この日、前底監督が注意していたのは、ボールから目を切った選手に対してだった。目を切ったと言っても、緊迫したプレーの最中ではない。状況はこうだ。
無死一、二塁から打者は送りバントをした。三塁手が捕球し、一塁へ送球。打者はアウトになり、一塁手が投手にボールを返す。そのとき、三塁手がボールから目を切った、というのである。
「きょうは、相手にスキを見せないというのが練習のテーマでした。あの場面、ファーストの選手がイップスで、ピッチャーに悪送球する可能性だってある。そこでサードが目を切ってはダメでしょう。100回に1回も起きないプレーでも、それを想定して練習しておかないと」
前底監督は練習途中のミーティングの意図を、そう説明してくれた。チップチップベースボールセンターが大切にしているのは、そういうところだ。
「いきなり全国制覇と言っても難しいけれど、攻守交替のときの全力疾走とか、一塁を全力で駆け抜けるとか、守備でのカバーリングとか、そういうところは日本一になろうと常日頃から言っています。たとえばショートゴロやサードゴロのとき、セカンド、ライト、キャッチャーは毎回、一生懸命カバーに走る。ショートやサードが優秀なら、悪送球することはほとんどないかもしれないけれど、それでも走る。それって、ファインプレーよりも大切なことじゃないかと思うんです。そういうことを続けることでファインプレーが生まれたり、ホームランが生まれたり、ピッチャーが三振を取ったりするんじゃないかと、繰り返し言っていますね」
前底監督も、若いころからその大切さに気づいていたわけではない。一つひとつのプレーに対する姿勢を問い始めたのは、30歳を過ぎてから。
「子どもたちはもちろん、高校生や大学生よりも高い意識を持っていないといけない。たとえプレーで劣っていても、意識だけは見本になるチームでありたいと思っています」
子どもたちのため
新チーム結成の一助に
昨年の天皇杯、前底監督はチームのメンバーに、家族や彼女、会社の上司、同僚など、ふだん野球をすることに協力してくれている人たちに、見に来てもらうよううながした。時に家族サービスよりも野球を優先したり、時に仕事を休んで全国大会に出場したり。後ろめたさを感じながら野球を続けている選手も多いが、一生懸命にプレーする姿を見てもらうことこそが、周囲の人たちへの恩返しになると考えたからだ。
「初戦で負けてしまいましたけど、『見に来てよかった』と言ってもらえました。全国大会以外は難しいかもしれませんが、これからも積極的に声をかけて、理解してもらえるようにと思っています」(前底監督)
チップチップベースボールセンターをはじめとする軟式野球チームのプレーに感銘を受けたのは、選手の家族たちだけではなかった。ある少年野球チームの父兄は、自身のブログにこう書き込んでいたと言う。
〈プロ野球のキャンプやオープン戦を見に行くより、沖縄でやっている軟式野球の全国大会を見に行くほうが、子どもたちの勉強になるよ〉
このブログを読んで、前底監督は「自分たちのやってきたことは間違いではなかった」と確信した。だから、これからも自分たちのプレーを通じて野球の素晴らしさを伝え、沖縄に企業チーム、クラブチームが増えるきっかけづくりに貢献できればと考えている。
「たとえば、どこかの企業の社長さんが試合を見て、野球が人材育成につながるとか、会社が豊かになるとか、そんなふうに考えてチームを作ってくれたらなと思うんです。遠征費用を出してくれとか、そんなことじゃない。ただ、チームを作ってくれて、試合のために仕事を休むことを許してくれる企業があれば、高校生や大学生の受け皿にもなるでしょう。そのためにも頑張りたいし、『チップチップにいる大学生をウチの企業で取りたい』と言ってもらえたらうれしいですよね」
こうした前底監督の考えを、選手たちも理解している。一緒にチームを立ち上げた下里綱投手は、「監督は、沖縄の軟式野球界のお手本になろう、大きく言えば、軟式野球のレベルの高さを示して、沖縄のスポーツ界でひと花咲かせようと考えていると思います。僕たちはそれに乗っかっている感じですが、思いは同じですよ」と話してくれた。
勝敗を度外視するつもりはない。勝つことで、やってきたことが間違いではないと証明することも大切だ。ただ、勝利至上主義にはならない。
「ウチの野球を見て、別のチームも似たような取り組みをしてくれれば、沖縄の野球事情が変わるかもしれない。それが子どもたちのためになると思って頑張ります」
前底監督をはじめ、チップチップベースボールセンターで野球に取り組む選手たちの思いは、沖縄の未来へとつながっている。
(監督プロフィール)前底 譲まえそこ・ゆずる/1975年5月31日生まれ。沖縄県出身。小学1年から軟式野球を始め、中学まで続ける。那覇商高では硬式野球部に所属。沖縄国際大2年時にバッティングセンター・チップチップベースボールセンターのオーナーと出会い、高校の同級生らと軟式野球チームを結成。以来、プレーイングマネージャーとしてチームを支えている。現在は野球ショップ経営、居酒屋経営のほか、硬式野球をする中学生の育成にも携わっている。
お買い求めは→https://www.sportsclick.jp/magazine/baseballclinic/new/index.html
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軟式社会人チーム探訪
沖繩・チップチップベースボールセンター
草野球チームが
全国レベルの強豪に
昨年、沖縄で「全日本軟式野球大会」いわゆる「天皇杯」が開催された。沖縄の日本復帰40周年記念事業の一環として行われたもので、県からは6チームが参加。うち5つは“開催地枠”による参加で、予選を勝ち抜いて代表になったのは、チップチップベースボールセンターだった。
同チームの結成は95年。前底譲監督を中心に、那覇商高硬式野球部OBの同級生が集まって作ったものだ。
「私が大学2年のとき、チップチップベースボールセンターのオーナーと出会ったことがきっかけでした。野球部OBといっても、レギュラーだった選手は県外の大学に行ったり、県内の硬式野球チームに入ったりしていたので、ほとんど控えメンバーだったんですけどね。だから、最初はただの“草野球チーム”でした」
前底監督はそう言って笑ったが、その草野球チームが県を代表して九州大会、西日本大会、さらには国体や天皇杯など全国の舞台に立つまでの強豪になったのである。
結成当初の思いは、「県内の企業チームをクラブチームで倒してやろう」というものだった。しかし、「オジさんのチームとやるときとか、ナメてかかっていた」(前底監督)のが原因か、なかなか勝てない。結成2年目に全日本軟式野球連盟に加盟し、まずC級で戦ったが、まったく結果が出なかった。それが翌年、B級にクラスを上げると、なぜか夏の県大会に優勝して全国大会でベスト4入り。上位クラスに入ることで、高い意識を持つようになったことが奏功したようだ。
意識改革といえば、勝てるようになったころから、前底監督は時間や野球に取り組む姿勢に厳しくなったと言う。携帯電話で時報を聞き、集合時間に1秒でも遅れると、その日の試合にはたとえ主力であっても出さないなど徹底していた。「勝ち始めたころから厳しくしたというより、厳しくするようになったら結果が出始めたんです」と同監督。野球の勝敗は技術だけで決まるものではない、ということだろう。
那覇商高野球部の控えメンバーが中心だったチームに、大学を卒業したレギュラー組が加わったり、他の高校OBが参加し始めたことも、チーム力アップにつながったかもしれない。気がつけば、チップチップベースボールセンターは県内で名の知れた軟式野球クラブチームとなり、甲子園経験者まで参加するようになっていた。
今年も一人、有望な新人が加わった。国仲那樹捕手。浦添商高で3年春までレギュラーを張り、夏は背番号12でベンチ入り。昨夏の甲子園ではマスクもかぶった。沖縄国際大に進学したが野球部には入らず、チップチップベースボールセンターの一員になった選手だ。
「小学校のころからチップチップベースボールセンターに通っていて、去年の秋、そこで誘いを受けたんです。硬式を続けたいとは思っていなかったし、A級の中ではレベルの高いチップチップでやってみようと思いました。みんなキビキビしているし、言うべきところはちゃんと言うチームですね。このチームが強くなるように、貢献していきたいです」
紹介が遅れたが、「チップチップベースボールセンター」は浦添市内にあるバッティングセンター。つまり、国仲選手は子どものころから、そのバッティングセンターで練習していたというわけだ。
全力疾走やカバーリングの
意識では日本一に
バッティングセンターがスポンサーになってくれている利点は、打撃練習が無料でできること。しかし、投手は各自で走り込みをしたり、空いた時間に誰かをつかまえて、キャッチボール程度の練習をするしかない。他のクラブチーム同様、練習環境には決して恵まれていない。
全体練習は週1回のみ。火曜日の夜8時から10時まで、市内小学校のグラウンドを借りて行っている。沖縄県各市では学校体育施設の夜間・休日開放事業を行っており、体育館や照明設備のあるグラウンドを一般開放しているのだ。取材当日は体育館にも明かりがともっていた。
大会が入ってなければ、日曜日に練習試合をすることもあるが、なにしろ全体練習の時間が少ない。したがって、各自でウオーミングアップを済ませると、実戦形式の練習をすることが多くなる。取材当日もアウトカウントや走者を想定したシート打撃を入念に行っていた。
そして、気になる点があれば、練習を中断して集まり、ミーティングが始まる。この日、前底監督が注意していたのは、ボールから目を切った選手に対してだった。目を切ったと言っても、緊迫したプレーの最中ではない。状況はこうだ。
無死一、二塁から打者は送りバントをした。三塁手が捕球し、一塁へ送球。打者はアウトになり、一塁手が投手にボールを返す。そのとき、三塁手がボールから目を切った、というのである。
「きょうは、相手にスキを見せないというのが練習のテーマでした。あの場面、ファーストの選手がイップスで、ピッチャーに悪送球する可能性だってある。そこでサードが目を切ってはダメでしょう。100回に1回も起きないプレーでも、それを想定して練習しておかないと」
前底監督は練習途中のミーティングの意図を、そう説明してくれた。チップチップベースボールセンターが大切にしているのは、そういうところだ。
「いきなり全国制覇と言っても難しいけれど、攻守交替のときの全力疾走とか、一塁を全力で駆け抜けるとか、守備でのカバーリングとか、そういうところは日本一になろうと常日頃から言っています。たとえばショートゴロやサードゴロのとき、セカンド、ライト、キャッチャーは毎回、一生懸命カバーに走る。ショートやサードが優秀なら、悪送球することはほとんどないかもしれないけれど、それでも走る。それって、ファインプレーよりも大切なことじゃないかと思うんです。そういうことを続けることでファインプレーが生まれたり、ホームランが生まれたり、ピッチャーが三振を取ったりするんじゃないかと、繰り返し言っていますね」
前底監督も、若いころからその大切さに気づいていたわけではない。一つひとつのプレーに対する姿勢を問い始めたのは、30歳を過ぎてから。
「子どもたちはもちろん、高校生や大学生よりも高い意識を持っていないといけない。たとえプレーで劣っていても、意識だけは見本になるチームでありたいと思っています」
子どもたちのため
新チーム結成の一助に
昨年の天皇杯、前底監督はチームのメンバーに、家族や彼女、会社の上司、同僚など、ふだん野球をすることに協力してくれている人たちに、見に来てもらうよううながした。時に家族サービスよりも野球を優先したり、時に仕事を休んで全国大会に出場したり。後ろめたさを感じながら野球を続けている選手も多いが、一生懸命にプレーする姿を見てもらうことこそが、周囲の人たちへの恩返しになると考えたからだ。
「初戦で負けてしまいましたけど、『見に来てよかった』と言ってもらえました。全国大会以外は難しいかもしれませんが、これからも積極的に声をかけて、理解してもらえるようにと思っています」(前底監督)
チップチップベースボールセンターをはじめとする軟式野球チームのプレーに感銘を受けたのは、選手の家族たちだけではなかった。ある少年野球チームの父兄は、自身のブログにこう書き込んでいたと言う。
〈プロ野球のキャンプやオープン戦を見に行くより、沖縄でやっている軟式野球の全国大会を見に行くほうが、子どもたちの勉強になるよ〉
このブログを読んで、前底監督は「自分たちのやってきたことは間違いではなかった」と確信した。だから、これからも自分たちのプレーを通じて野球の素晴らしさを伝え、沖縄に企業チーム、クラブチームが増えるきっかけづくりに貢献できればと考えている。
「たとえば、どこかの企業の社長さんが試合を見て、野球が人材育成につながるとか、会社が豊かになるとか、そんなふうに考えてチームを作ってくれたらなと思うんです。遠征費用を出してくれとか、そんなことじゃない。ただ、チームを作ってくれて、試合のために仕事を休むことを許してくれる企業があれば、高校生や大学生の受け皿にもなるでしょう。そのためにも頑張りたいし、『チップチップにいる大学生をウチの企業で取りたい』と言ってもらえたらうれしいですよね」
こうした前底監督の考えを、選手たちも理解している。一緒にチームを立ち上げた下里綱投手は、「監督は、沖縄の軟式野球界のお手本になろう、大きく言えば、軟式野球のレベルの高さを示して、沖縄のスポーツ界でひと花咲かせようと考えていると思います。僕たちはそれに乗っかっている感じですが、思いは同じですよ」と話してくれた。
勝敗を度外視するつもりはない。勝つことで、やってきたことが間違いではないと証明することも大切だ。ただ、勝利至上主義にはならない。
「ウチの野球を見て、別のチームも似たような取り組みをしてくれれば、沖縄の野球事情が変わるかもしれない。それが子どもたちのためになると思って頑張ります」
前底監督をはじめ、チップチップベースボールセンターで野球に取り組む選手たちの思いは、沖縄の未来へとつながっている。
(監督プロフィール)前底 譲まえそこ・ゆずる/1975年5月31日生まれ。沖縄県出身。小学1年から軟式野球を始め、中学まで続ける。那覇商高では硬式野球部に所属。沖縄国際大2年時にバッティングセンター・チップチップベースボールセンターのオーナーと出会い、高校の同級生らと軟式野球チームを結成。以来、プレーイングマネージャーとしてチームを支えている。現在は野球ショップ経営、居酒屋経営のほか、硬式野球をする中学生の育成にも携わっている。
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Posted by チップチップBBC at 10:43│Comments(0)
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